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熊木杏里 『風と凪』 インタビュー

アルバム
熊木杏里 New Single『風と凪』

『風と凪』
2010.03.10 RELEASE
KICS-1537/8
3,500円(tax in.)

熊木杏里 『風と凪』を購入する
DISC1 <風>
01.春の風
02.遠笛
03.時の列車
04.窓絵
05.ひみつ
06.雨が空から離れたら
07.しんきろう
08.新しい私になって
09.モウイチド
10.誕生日
11.CHAPPE SONG
DISC2 <凪>
01.ゴールネット
02.戦いの矛盾
03.最後の羅針盤
04.君の名前
05.長い話
06.こと
07.朝日の誓い
08.私をたどる物語
09.一千一秒
熊木杏里 『風と凪』 インタビュー

--また、その時代の熊木杏里を語る上でこの人の存在は欠かせません。吉俣良さん。一言では言い尽くせないと思いますが、彼にはどんなことを学んだりしましたか?

熊木杏里:吉俣さんは今までの熊木杏里の“ほぼ”を作ってくれた人ですね。歌い方とか、アレンジとかについてのケンカもいっぱいしたんですけど(笑)。でも当時は、端から見たときには熊木杏里がいろんなことをやっているように思えたかもしれないけど、吉俣さんが私の音楽においては絶対的な存在だった。だから今までの曲を並べて聴いてみても、吉俣さんのアレンジは今でも好きだなって。やっぱり凄い人だったんだなって思う。あと「自分をこういう風に届けたい。それをここからは自分でやらなきゃな」っていうときの術も全部吉俣さんに教えてもらったかもしれない。もう吉俣さんに関しては思い出がいっぱいありすぎますね。

--それらは今の熊木杏里の音楽にも強く影響してると言えますか?

熊木杏里:影響してますね。どこかで吉俣さんと比べちゃう自分がいますからね、今でも。それは良くないなと思うんですけど。だからそういうのを払拭するべく、ビシッと違うモノを自分から呈示したい。いつまでも吉俣さんを追い掛けてはいられないから。

--続いて<凪>についても聞いていきたいんですが、個人的には「ようやくアルバムに入れてもらえたか、おめでとう!」と言いたい曲があって。それは『ゴールネット』なんですけど、この曲をベストに収録しようと思ったのは?

熊木杏里:やっぱり他にない、すごく好きな曲なんですよね。「ゴールネットを揺らす」っていうのも男らしくて良いし。最初の一音が始まった瞬間に「くぅ~っ!」ってなる。当時、ライブでよく歌っていたのも、他に変わる立ち位置の曲がなかったからだし。もちろんこの曲の密かなファンが居てくださったのも大きいんですけど。そういう曲なので1曲目に入れることで「<凪>が始まるよ!」みたいな雰囲気も出るかなって思ったんです。

--この曲はシングル『七月の友だち』の収録曲だけど、その後に出るアルバム『私は私をあとにして』に入れよう!みたいな話にはならなかったの?

熊木杏里:なりましたね。すごく悩んだのを憶えています。でもあのアルバムに『ゴールネット』が入っていたら「もうお腹いっぱい」みたいなことになっていたと思うんですよ。それで「『ゴールネット』入らないんですか!?」って言いながらも渋々断念したんです。だから今回アルバムに入れることができたのは嬉しいですね。

--あと『戦いの矛盾』。この曲を選んだ理由を知りたいです。

熊木杏里:『戦いの矛盾』のようなテーマで書いた曲も他にないんです。だから振り返ってみたときに「大事なポイントになる曲ではあるのかな」って。でも今回選曲してて、シンガーソングライターってすごく自分本位なんだなって気付きました。<風>と<凪>で分けちゃってる時点で「すごく勝手だな」って思うし。思うんだけど、この曲も熊木杏里の中ではとても大事な部分だし「ぜひまた新たに聴いてもらいたいな」って。

--僕はこの曲がひとつの伏線となって、またいつか“広い世界における自分”の視点から何かを生み出す日が来ると予感していて、勝手ながらに期待もしていて。

熊木杏里:『戦いの矛盾』は全体的に正しいことを歌っている曲ではないから、自分が「確かに今歌いたい」って思わないと歌えないんですよね。だから自分がもうちょっと年齢を重ねたり、いろんなことを音楽的にも表現できるように成長していったときに、もう少し広い、それこそ井上陽水さんが歌っていそうな曲も書けたらいいなとは思います。

--で、僕はこのアルバムをすべて聴かせてもらってね、今も変わらず聴いていてハッとさせられる曲ばかりだったことにテンションが上がりました。どの時代のどの曲の熊木杏里も、大袈裟に言うならば人が生きる上での真理を突いていて。更に言えば、ほとんどの曲が背中を押してくるんだよね。これって凄いことだよ。

熊木杏里:でも私はまだ、例えば「オリコンで勝負をしよう」みたいな曲を書いたことがなくて、常に周りにいる誰かや出逢った人からもらった何かを歌にしていて。“音楽を作る”っていうよりかは“自分が音楽”みたいな部分が多くある。いろんなモノを取り入れたときに「それで今自分は何を放てるんだろうか」っていうところから離れきれないまま曲を作ってきていて。だから全然誰かの為に曲を作っていた訳じゃないんですよ。でもそれが誰かの背中を押すというパワーになっていたっていうのは、そこに確かな熱量みたいなモノが曲の中にあったんだろうなって。

--なるほど。

熊木杏里:でも今は、上手く言えないんですけど、そこじゃない音楽も作ってみたいんです。例えば、今までのスタイルでライブをやっていて「音楽って楽しいなぁ~!」って思う感じってあんまり無かったんですよね。それは「楽しい!」っていう感じの曲を書けていないからなんです。もう全部が「思いの丈だけ!」みたいな。それを届ける為だけに存在する曲ばかりなんですよ。だから歌いながらたまにやりきれなくなるときもあって。なのでもう少し音楽の在り方みたいなモノを変えて、もっと幅が出てくるといいなって思ってるんです。その為の力を付けたい。

--そこの未来の話を具体的に聞かせてください。個人的にはここに在るたくさんの熊木杏里たちに背中を押されながら、このベストアルバム以降の熊木杏里は進んでいくだけだと思ってるんだけど、自分的には未来に向けてどんな構想や想い、願いがあったりするの?

熊木杏里:自分が表現したいことを支えたり助けてあげられる、もうひとつの表現をする自分を作りたい。今までは無謀じゃないけど、言葉で押し切るとか、歌詞を乗せてしまって満足とか、私は歌詞が命だったりするから、それによって勿体ない部分ももしかしたらあったのかなって。吐き出したい気持ちはもちろんあるんだけど、それを今までみたいにただ吐き出すんじゃなく、それこそ自分の中にある吉俣さんみたいな役割を持つ存在でもって表現してみたいんです。自分の中に何人かの熊木杏里を存在させながら、もう少しだけ音楽っぽい感じで人と関われていけたら楽しいんだろうなって。そういう予想があって。だから孤高になる感じではない。

--孤高が嫌になった?

熊木杏里:いや、孤高なんだろうけど……。


Interviewer:平賀哲雄
Page Design:唐沢友里江