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サカナクション 『アイデンティティ』インタビュー

シングル
サカナクション シングル『アイデンティティ』

『アイデンティティ』
[初回限定盤 CD+DVD]
2010.08.04 RELEASE
VIZL-386
\1,800(tax in.)

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[通常盤]
VICL-36603
\1,200(tax in.)

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01.アイデンティティ
02.ホーリーダンス
03.YES NO(AOKI takamasa Remix)
Archive
サカナクションのアーティストページへ
サカナクション 『アイデンティティ』 インタビュー

--僕はそのツアーの最終公演で、今回のニューシングル『アイデンティティ』を聴きました。そもそもどんな背景があって生まれた曲なんでしょうか?

山口一郎:僕は音楽を作っていく中でしか“自分らしさ”について考えることが無かったんですよ。つまり自分と向き合う中で“自分らしさ”を考えていくのが普通だと思っていた。でも東京に出てきたことでね、東京っていう街はいろんな地方から来ている人の集合体だなと思ったし、そういった人たちがすれ違う人と自分を見比べて“自分らしさ”みたいなものを発見しているんだなって。服装にしろ、髪の長さにしろ、細かいひとつひとつを見て自分を確認している。あと、YouTubeのコメントとか見ていると、動画を見終えた直後の感動をコメントしているんじゃなく、見終えて他人のコメントをいくつも見た上でコメントしている人が多い。それって他者の意見を反映させた自分の意見だからピュアじゃないんですよ。でも今はそれが正論になったりする。そこに僕は時代の面白さを感じたんですよね。

--なるほど。

山口一郎:それで“本当の自分らしさ”について考え出したとき、一体いつの年代がピュアに自分の感覚で話していたのか振り返ったとき、やはり「幼少期だな」って思ったんです。子供の頃の素直さというか、20代後半の女性を掴まえて「おばちゃん」って平気で言ったりね(笑)。今は気を遣って言わないことを言っていた。それは無知なんですけど、無知だからこそピュアでいられた。でも今は無知ではなくなった年齢で、その中でピュアをどう出していくのかが“本当の自分らしさ”に繋がっていくんじゃないかと気付いて、それを『アイデンティティ』という曲で表現しようと思ったんです。

--サカナクションって「とにかく売れそうな曲を」と思ってシングルを作っている訳ではなくて。それがメディアに乗ったとき、リスナーなり視聴者が「なんだこれは?」と騒ぎ立てたくなる要素を必ず入れ込む。事件性があるというか。

山口一郎:それが僕らにとっては「オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの間を射抜いていく」っていうひとつの方法論で。衝撃が薄い90年代~00年代にかけてのメジャーロックシーンがあったから、その悪い行事というか、腐敗したものを壊していく。そういう作業をしていかないと新しいシーンは切り開けないと思うし。まぁこういう発言をすると敵も増えるけど、でもその中でも結果を出していけばね、きっと認めてもらえるというか。僕はやっぱり日本の音楽シーンがすごく好きだし、日本のロックが好きだから、そこでひとつ新しいものに挑戦していく。そんな立場で音楽を続けている変なバンドがいても良いかなって。

--ただ、事件というのはどんなに意識したとしても起こせない人には起こせない訳じゃないですか。計算や努力も必要ですが、どこか神懸かった奇跡や偶然も不可欠な訳ですよね。でも今のサカナクションはそれを次々と起こせてしまう。これは何故だと思いますか?

山口一郎:俯瞰で自分たちを見ている部分と、内向的に自分たちと真剣に向き合っている部分。その二面性を自分たちの中でちゃんと持っていること。それが僕ららしさを貫いていけてるひとつの要因なんじゃないかなって。やはり謙虚にね、自分たちを見つめていると、本当に俯瞰で見れるんですよ。ちょっとでも天狗になると「同じこと繰り返しても、どうせみんな付いてきてくれるだろう」って考えが出てくるし。それが少しでもあると甘えが出てくる。そうじゃなく、常に挑戦して変えていく。壊していって新しい自分を見つけていく。この謙虚な姿勢を貫いていくことが、自分たちらしさを保つ為の方法論かなって。

--その上で、しっかりと楽曲の力としても、数字的な結果としても、常に更新できている事実には、奇跡的なものを感じずにはいられません。

山口一郎:もちろん奇跡的な部分、偶然の産物はたくさんあると思うけど、戦略を立ててそれをきっちり形にしていく。前回のインタビューでそれを“表現”と言いましたけど、そういうものが評価される時代が今来ている気がしてて。だから「アーティストとして内面を話していきたい」って言っている理由も実はそこで。僕らが何故こういうことをやっているのか。その戦略を面白がってくれる人が出てくればね、僕はそれは表現だと思うし。それを貫いていく為には僕らも計算しなきゃいけない。奇跡を計算するというか、そういう作業も必要だったりするんで。なんか……、一生懸命やってるだけですけどね(笑)。

--すごくシンプルに言うとね(笑)。でもその戦略を表現として見てくれるリスナーを増やすためにも、やはりサカナクションの存在はデカくなっていかなきゃいけない。

山口一郎:もちろんそうですね。マスに対して挑戦するっていうことは、自分がマスにならないと説得力がないですからね。今みたいな時代は「ただの負け犬の遠吠えだ」って簡単に批判されるし。でもちゃんと上まで行くとね、僕らが言っていることを聞いてくれる人が増える訳で。そこへどういう形で行ったらいいのか。っていう道順をチーム・サカナクションで考えながら、僕がひとつの舵を持ってね、目的に向かって進んでいけたらいいかなって。玉砕する気持ちで進んでますよ。

--90年代~00年代前半の音楽シーンには、やることなすことが大きな評価を得てどんどんデカい輪を生んでいってシーン全体に潤いを与える“現象”を巻き起こす存在が決して少なくはありませんでした。で、今のサカナクションってその“現象”を先達たちとは全く違う形で今一度巻き起こそうとしている。そのぐらいの気概を感じます。

山口一郎:僕はね、あのバブルがあってCDがたくさん売れた時代に「何故もっと対策をしておかなかったんだ」って思っていて。音楽業界の体質が僕はすごく気に入らなくて。今の時代もそれを繰り返しているし、上手くやっていけると思ってる。もちろんそれに物凄く疑問視を持って戦っている人もたくさんいますけどね。でもテレビっていうメディアの力だけを頼ってCDを売ろうとする人もたくさんいる。未だにそこの悪循環にはいつも苦しめられていて。もっと教育しておくべきだったと思いますよ、あの時代の人たちは。ちゃんと本質的なものを届けていく。同じことを繰り返して、同じような曲を出し続けることがロックじゃなくて「もっといろんな形の音楽があるんだよ」って届けていくこと。特に上に行った人が届けていくこと。それをやるっていうのは僕のひとつの目標でもあります。

--今そこに気付いて意識的に動けている人っていると思いますか?

山口一郎:ミュージシャンの中では危機感を持っている人はいると思うけれど、実際に動けている人は少ないんじゃないかと思います。でもやっぱりアーティストからやらなきゃいけない。そこをちゃんとやらないと、アーティストはただ付いていってるだけになるから。それが理解できないと何も変わらないんですよ。

--ただ、そうした改革的な動きをミュージシャンがすると、それを批判する者たちがリスナーの中にも、同業者の中にも出てくるものだと思うんですが、そこはどう受け止めていこうと思っていますか?

山口一郎:そう批判していられない時代がすぐ来ますから、あっと言う間に。CDが売れなくなりますから、確実に。配信というものが伸びていくし、ひょっとしたらストリーミングになってしまいますからね。「じゃあ、そうなったときにどうするのか?」ってそのときに考えているようじゃダメだし、今だらだらと「音楽は続いていく」と思って音楽をやっている人たちっていうのは淘汰される。僕らなんてたかがミュージシャンですから。サラリーマンの方から比べたら本当にだらしない職業ですよ(笑)。毎日朝早く起きて出勤して働かなくていい訳ですから。曲を作ったりするだけでいい訳ですからね。どちらかと言ったら部活ですよ。でもそこでお金貰ってる訳だから。じゃあ、自分たちの働いている世界というものについてちゃんと考えなきゃいけない筈で。そうしないで甘んじている人を僕はやっぱり許せないし、自分がいるシーンをもっと素晴らしいものにしたいし、音楽的文化価値を高めたいですからね。そこに対して否定的なことを言ってくる人はもちろんいるけど、でもそれはきっと知らないだけでね。知ったら分かってもらえると思うんですよ。知らないことは本当に罪じゃないですから。で、僕は知ってもらう為に上を目指す。それは熱意を持ってやっていきたいなと思ってます。

--なるほど。

山口一郎:海外はもうレコード店がなくて、CDが日本よりも売れていない。そういう事情がある中で新しい音楽ビジネスを考え始めている。レディオヘッドがやった取り組みだったりとか。でも日本はもっと民族的な部分でね、CDに対して可能性がある国だと思うんですよ。コレクター的文化があるし、より良いものを求める志向がある。ミュージシャンが教育のことを話すなんておこがましいんですけど、小学校の授業でベートーベンがいつ生まれて亡くなったとか教えるぐらいだったら、もっと日本の音楽シーンについて教えてほしいと思うし。「今日はミックスの授業をしてみましょう。ドラムを左に振って、ギターを右に振ってみましょう」とか「5つのこの素材をまとめて音楽にしてください」っていう授業があるだけでね、子供は面白いことをやるだろうし、その先で出逢う音楽もそういう耳で聴くじゃないですか。そうなるともっと音楽っていうものの意味がね、分かると思うんですよ。もっと素晴らしいミュージシャンがたくさん生まれてくるだろうし。僕らの未来の子供たちがね、良い音楽を聴いて育っていけるような社会を作っていく。それが僕は音楽をやっている身としてね、ひとつのテーマというか、やらなきゃいけない責務だと思ってます。

Interviewer:平賀哲雄
Page Design:佐藤恵