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熊木杏里 ライブレポート

【熊木杏里 Autumn Tour 2009 はなよりほかに】
2009.11.15(SUN)
東京国際フォーラム ホールC
01.未来写真
02.あなたに逢いたい
03.センチメンタル
04.花言葉
05.それぞれ
06.天使
07.春の風
08.長い話
09.Woh Woh
10.誕生日
11.一千一秒
12.雨が空から離れたら
13.最後の羅針盤
14.今日という日の真ん中
15.こと
16.Snow
17.新しい私になって
18.君の名前
19.バイバイ
En1.やっぱり
En2.どこまでも

熊木杏里アーティストスペシャル

 なんてポップでカラフル。この会場特有の緊張感を上から丸ごと包み込んでしまうほどのキラキラした音楽、優しさに満ちあふれた歌声が響き渡る。【熊木杏里 Autumn Tour 2009 はなよりほかに】東京国際フォーラム ホールC公演の幕開けは、熊木杏里の実際に経験した恋愛から生まれた想いが次々と美しいメロディに乗って響き渡る、とても新鮮なモノであった。ラブソング中心の構成で臨んでいる今回のツアーであるが、その初の試みによる感動や衝撃はこちらの予想以上。優しさも切なさも儚さも何もかもがエモーショナルで、そのひとつひとつに僕らも大切な人を想ったり想い出したりしながら胸を熱くしていく。
 それにしても“女は恋をすればするほど強く美しくなる”と言うが、今目の前にいる彼女ほどそれを見事に表現している人もいない。小指の先には約束などない。故に僕たちはそれぞれの道へ、それぞれの人として生きていかなくてはならない。あの頃よりひとつもふたつも新たな意味を持ち、想いの乗った『それぞれ』に大きな拍手が飛び交う。続く『天使』の「白い情熱が燃えたらどうなるんだ?」というフレーズを歌うのではなく叫ぶ彼女や「君には いっそ 全てのものを差し出してしまったっていい」と低いトーンで囁く彼女にも大きな拍手。今、確実に彼女と僕たちは強く共鳴している。

 椅子に腰掛け、アコースティックギターの音色だけをバックに、人を深く愛せた27歳の熊木杏里が歌うのは『長い話』。今から10年前の自分を綴った曲だ。まるで今の自分の後ろに立っている自分たちを愛おしむように言葉を紡ぐ彼女。17歳〜22歳に至るまでのすべてのエピソード。初めて聴く話ではないのに、今の熊木杏里が充実すればするほどこの過去の歌は不思議と力を増すのか、どれもこれもイチイチ心が震えて仕方がない。続く、同じくアコースティックで披露された小田和正『Woh Woh』のカバーも、その声だけでなく一語一句に込める想いも彼女自身であるから“名曲を歌ってくれた喜び”には止まらない。オリジナル曲と同様、彼女の想いとこちらの想いが重なってここでも感動が生まれる。

 やっぱり今日の熊木杏里は、過去のすべてのライブを凌駕するほどにエモーショナルだ。「あったかい気持ちを届けたい」と急遽セットリストに組み込んだ『誕生日』も、強く人を愛した先に導き出した大きな意志を持つ『一千一秒』も、そこにある思いの丈を解き放つように歌う。そして再びステージの中央に立った彼女は、友人を励ますために生み出した『雨が空から離れたら』を、今日はここにいる全ての人々を鼓舞させるメッセージソングとして熱唱。続く『最後の羅針盤』もあの頃より強く僕らの背中を押してみせる。そんなかつて生み出した曲との距離感も見事に縮めてみせた彼女は、再びラブソングを歌い始めた。

 熊木杏里を強くも弱くもした時間に生まれたラブソングたち。何があっても離れたくなくて、大好きで、でも別れてしまうこともある。けれど、またその想いは必ず……、そんな気持ちを、自身の歴史を、凄まじい集中力で歌い昇華していく彼女。息が止まるかと思うほど、時間が止まったと感じるほど、他の全てを置き去りにして愛だけが僕らを包み込み、あなたを愛するからこそ芽生えた気持ちたちがこの巨大な空間を隙間なく埋め尽くしていく。こんなにリアルな想いとなって響く「本日私はフラレました…」「忘れます 忘れます 新しい私になって」を聴くのも初めてだ。
 「とても好きだった人のこと」と語り始めた彼女は「終わってみてから気付いたことがたくさんあります」と、自分と同じように大好きな人との別れを経験した人々へ『君の名前』を届ける。今にもはち切れそうな想いだから、彼女の声が泣いているから、でも「背負うことは何もない 君は羽を持っているよ」「顔をあげて笑ってよ 胸を張ってゆけるだろう」と歌うから、泣き虫な僕らは涙が止まらなくなる。気持ちが張り裂けて、あの人への想いが改めて大きかったことに気付かされるのだ。そして、まるであの日の夕焼けのように僕らの心に染み込む『バイバイ』。やけに優しくて愛おしい。

 この日はアンコールもラブソング。しかも聞こえてきたフレーズは「やっぱり好きと言って」。「いつでも あなたの帰る場所になるなら 私なら大丈夫」「やっぱり好きだから」である。他のどんな想いも敵わない想い。それを彼女は残して、バンドメンバーたちと手を繋ぎ、笑顔で頭を下げる。
 そして1人ステージに残った熊木杏里は「聴いてほしくて、聴いてほしくて、届けたい」と、鍵盤を奏でながら、春のツアーでも披露したあの曲を「見えない壁に負けないで 超えてゆけるよ」「明日の印は 風の中 追いかけていこう」とより力強いメッセージソングにして届けた。その曲の名は『どこまでも』と云う。なんて彼女らしい。

熊木杏里 Photo

Live Report:平賀哲雄
Page Design:佐藤恵