風の中の行進

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風の中の行進
熊木杏里
発売日:2006.09.21
KING RECORDS
KICS-1257
\3,000(tax in)

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熊木杏里という人は、大きな声で自信満々に「私の歌を聴いて!」「響け!この想い!」と歌うタイプのアーティストでは決してない。誰にでも笑顔を振りまける社交性も持ち合わせていないし、入れ替わりの激しい音楽シーンの中で計算高く生きる術も知らない。どちらかと言えば、不器用。賢く世の中を渡っていこうとするタイプじゃない。それ故に彼女はいつだって悩んでいたし、苦しんでいた。そしてそうした状況の中から生み出された彼女の歌はやたら僕らの心に響いた。かつて彼女の歌声を表現するときによく使っていた言葉だが、“心のよりどころ”になるような歌が、音楽がいくつもそこに生まれていた。ただ今思うとその感覚はきっと、聴き手もまた彼女と同じように、目には見えない様々なモノに対する疑問や矛盾を消化できず、悩み苦しんでいたからこそ、だったのかもしれない。彼女と同じように窓の外の景色を眺めてはため息をこぼし、そこに映る希望の光や絶望の闇をただ眺めるしかできなかったのだ。
しかし彼女は、気が付く。様々な出会いや出来事の中から。自分を悩ませるのも苦しめるのも自分自身、それを変えるのもまた自分自身の意志であり、想いであることを。今作『風の中の行進』からの先行シングルとなった『流星』で彼女は、これまでになく希望に満ちた、少し照れてしまうぐらいに前向きな歌を響かせ、明らかな“変化”を感じさせた。そしてそれから4ヶ月ほどのインターバルを開けて発表された今作では、1曲目の『それぞれ』から“動き出していく”姿を鮮明に表現し、それ以降も“その瞬間を生きる”ことの大切さ、いつまでも続いていく“情熱”を歌い、新しい熊木杏里の世界を僕らに見せている。その世界は、窓から覗くことのできる狭い景色ではない。何にだって触れようと思えば触れられる、変えようと信じれば変えられる、どこにだって、どこへだって行けてしまう、窓の外の世界。何もかもがリアルに感じられる世界。そして僕らは感じる。新たな決意を胸に歩き出すときのあの感じを。
心躍る不安と希望。妙な清々しさがまるで自分を物語の主人公かのように感じさせ、胸が高鳴って仕方ない。今の僕ならきっと、どこへだって行けるし、何にだってなれる。今の僕ならきっと、希望の光も絶望の闇も全身で受けとめられるはずだ。その結果、また悩んだり苦しんだりするかもしれないけど、そこで得るモノは無限大。すべては僕にとって大きな糧となり、いくつもの芽を生やし、花を咲かす。なぜなら僕はもう歩いていくことを決めたから、生きることをやめないから。世界は変えられる。自分も変えられる。すべては僕次第。熊木杏里は長い歳月をかけて、情報としてではなく経験としてその答えを手にした。そうして完成した『風の中の行進』。優しい歌声は凛として心に響く。(文:平賀哲雄)
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