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春の風
泣けるぐらい心の奥底にじんわりと響き渡る歌がここにある。
熊木杏里『春の風』は、僕たちが諦めてきたことや忘れてきたことを浮き彫りにする、やさしくも力強いメッセージソング。来春全国ロードショーされる話題作『バッテリー』(原作:あさのあつこ 監督:滝田洋二郎)の主題歌として大きな注目を浴びるであろうこの楽曲は、もちろんその物語ありきで生み出されたナンバーなわけだが、「夢を箱にしまいこんだ 鍵は きっと 今でも もう一度 開けられる日を 待ち続けているはずだから」なんていうフレーズは、実に熊木杏里っぽい。そして近年希に見る名フレーズだとも思う。年齢や経験を重ねた分、人は多くのモノを手に入れるわけだが、その多くのモノが重荷になって、本当は一番失いたくなかったほんの一握りの大切なモノをどこかに置いてきてしまうものだ。ただ彼女は、僕らはそれを箱にしまって鍵を掛けてしまっているだけで、その箱は開けられる日を待ち続けていると歌う。あたたかくも凛とした声で。救われる。ものすごく救われる。 前作『新しい私になって』が実に印象的な資生堂のCMソングとして話題を集め、オリコンで自身最高位となる初登場26位を記録した熊木杏里。配信系のチャートではそれ以上の好アクションを見せており、また過去に発表したシングルやアルバムもここに来てスマッシュヒットを記録。今彼女は「ブレイク寸前」という言葉が正に相応しいアーティストであり、今回の、原作が累計380万部を超える映画『バッテリー』の主題歌起用は、熊木杏里の大きなターニングポイントになることは間違いないわけだが、そんな自分を見失いやすい状況下においても彼女はブレていない。それどころか、人が自分らしく生きていくための、大切なモノを見失わないための歌をここに生み出してみせた。僕はこの曲に映画の物語を想像させられると共に熊木杏里の物語を、そして「人が生きる」というドラマを感じずにはいられない。 今作『春の風』は、そのタイトルのイメージ通りのあたたかい曲と、人の心の奥底で感動的に響き渡る詞と歌とが、絶妙に相交わった名作である。熊木杏里の代表曲。(文:平賀哲雄) 01.春の風 02.幽霊船に乗って 03.遠笛 |
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