Within Temptationインタビュー:Rocks On The Road

Within Temptationインタビュー with シャロン・デン・アデル 『The Unforgiving』

WITHIN TEMPTATION画像2011
協力:ロードランナー・ジャパン
インタビュア:宮原 亜矢 16:30 1st of March 2011 (JPN)

WITHIN TEMPTATION:シャロン・デン・アデル写真画像
WITHIN TEMPTATION「The Unforgiving」アルバム画像

――ハロ〜?

「あ、ハロ〜?」

――お元気ですか?
「元気よ」


――元気そうな声です(笑)

「あはは、ありがとう」

――今日はお時間をいただいてありがとうございます。それでは、まずはそちらの様子から聞かせてください。

「順調よ。私も元気だし、すべてスムーズに進んでるわ。今はインタビューが立て込んでるけど、アルバムへの反応がとってもポジティヴだから元気が出るわ」

――アルバムの仕上がりについて、あなたはどう感じていますか?

「う〜ん・・・やっぱり当初はちょっと不安があったわ、かなり大きな変化を遂げたから。でも、仕上がりにはすごく満足してる。音楽的に、今まで活用してこなかった新しい影響を豊富に取り込んでいて、その影響源もそれぞれかなり異なるし・・・、このバンドは私たちが子供の頃から聴いて育った昔からの・・・80年代頭のヒーローたちにインスパイアされた部分が大きいんだけれど、今回のインスピレーションになったバンドはとにかく幅広く、片方にクリス・アイザックがいると思うと、もう一方には例えばアイアン・メイデンがいる、という具合で、逆に『どうしよう、これを全部、どうやったらアルバムに収められるのかしら』って思ったくらいなの。でも、最終的には何とかいい形に仕上がったと思う。曲毎の個性が際立っていて、どの曲ひとつとってもアルバム全体を代表するとは言えないくらい・・・少なくとも私個人はそう思っているんだけれど、同時に、幅の広さは良いアルバムの条件だとも思うから。とにかくフレイヴァが豊富な、そうねぇ・・・虹のようなアルバム、かしら(笑)。それくらい彩りが豊かだというのは、すごくクールなことだと思うわ」


――そうですね。とても大がかりなアルバムでもありますから、まとめるのが大変だったというのは想像がつきますが・・・。

「えぇ・・・」

――コンセプト・アルバムということで、音楽的なことのみならず、そのストーリーについても質問させてもらいます。まずは、この時点でこういうコンセプト・アルバムを作ろうと考えた動機から教えてください。

「前にもトライしてみたことがあるのよ。ただ、どういうわけかその時はうまくいかなかったの。ちゃんと形になったのは今回が初めて。今回は時間的な余裕を持って動き始めることができた、というのも実現できた理由のひとつだと思う。最初に試みたのは、公開が予定されている大作映画を見つけて、その映画に則した歌詞を書く・・・というやり方だったんだけれど、これは最終的に没になってしまって・・・というのも、映画の方の公開予定日がズレ込んでしまって、それに合わせると私たちのアルバムも延期することになるから、それは避けたかったので。でも、まだ歌詞には手を着けていない段階でわかったことだから、シナリオが変わっても対応可能ということで、大きな問題にはならなかった。そして、音楽以外のクリエイティヴな部分もすべて自分たちの思うように仕切って進行しようというのなら、独自に企画するしかないのかも・・・と考えるに至ったの。一番大事なのは、優れたストーリーを用意すること。ワクワクしながら歌詞を書きたくなるような、閃きを与えてくれるストーリー。映画だってコミックだって小説だって、ストーリーという基本がしっかりしていなければ始まらないでしょ。アルバムをコミックでも展開する、という発想も、その中から生まれてきたのよ。私たちは80年代初めの音楽に大きく影響されているから。あの頃のことを考えると・・・70年代の終わりから80年代の頭って、コンセプト・アルバムを出すバンドがいっぱいいたじゃない?」

――えぇ。

「そして彼らは、コミック・ブックにまでは発展させなかったにしろ、アートワークが創意工夫に溢れていた。で、私たちは今、せっかくこんなんにコミックが盛んな、ある種の黄金時代に生きているのだから(笑)、子供達も大勢コミックを読んでいることだし、ね?」

――そうですね。日本は特にそうですよ。

「そうよね、ヨーロッパより日本の方がそうかもしれない(笑)。でも、ヨーロッパでも、かなりのものよ。そんなわけで、コミックだけじゃなく、かつてアートワークが持っていた魔力も取り戻してみようじゃないか、と考えたの。アルバムのジャケットを見た時に、『わぁ、これってどういうストーリーなんだろう。どういう背景があるんだろう。続きが知りたいな』ってワクワクする感じ。ね?・・・あ、ちょっと待ってくれる?(電話の向こうで「行ってらっしゃ〜い」「行ってきま〜す」「チュッ」みたいな:笑・・・現地語だからわからないけど、そんなやり取りが聞こえてくる)・・・ごめんなさいね」

――お子さんですか?

「そうなの。学校へ行くところだったの」

――元気そうな声でしたね。

「そうなのよぉ(笑)。それで・・・何の話だったかしら、えぇと・・・、あ、そう、そう、そういう80年代の魔法を今に再現するようなアートワークを作りたくて、それをコミックにも発展させたら楽しいんじゃないかって考えたわけ。あと、目で見て『わぁお!』と楽しめるようなアートブックとか。とにかく、私たちが子供の頃に感じたワクワク感を呼び戻したかった。とはいえ、今は言うまでもなくグーグルやユーチューブの時代だから、物事は圧倒的にスピードアップしている。今ここにいたと思ったら、次の瞬間にはもう別の場所にいる・・・というくらい、すべてが一瞬のうちに広まって、色んな人が関心を持つようになるのだから、それを利用しない手はないわよね。ネットに1曲、早い段階で乗せたのは、そのためよ。そして、その1曲で終わりではなくて、そこからストーリーが始まって、アルバムの曲すべてが関連性を持っているんだ、という説明をしておくことで、より興味を持ってもらえるんじゃないか、と思って。私も、例えばピンク・フロイドなんか、アルバムが出るたびに『今度はどんなことをやっているんだろう』って楽しみだったし、『The Wall』なんて、次々と展開していくストーリーに心が躍ったもの。そんなことを考えながら今回のアルバムの構想を練っていくのは、とても楽しい作業だった。色んな楽しい思い出も蘇ってきて、正直、私は自分がコミックを好きで読んでいたことすら、すっかり忘れていたんだけれど・・・ほら、もう大昔のことだから(笑)、でも最近、映画で『X Men』とか『Iron Man』とか・・・ああいうのが出てきて、『そういえば、昔のコミックってクールだったなぁ』なんて(笑)。私、ああいうコミック・ヒーローが大好きだったから」

――女の子だけど、ヒーロー物が好きだったんですか。お姫様系じゃなくて。

「どっちも好きだったわよ。でも、8歳ぐらいの頃、スーパーマンに夢中になったことがあって、電話ボックスの周りを走り回ったことがあるくらいで・・・」

――え?

「ほら、スーパーマンって、ここぞっていう時に電話ボックスに駆け込んで変身するじゃない? だから、どこかからああいうケープが出てくるんじゃないかと思ったの」

――(笑)

「でも、そんなもの出てくるはずもなく、けっこう本気で幻滅した私は、『スーパーマンなんて使えない、ダメだ!』って。で、その後に夢中になったのがブルース・リー! クールだし、本物だし・・・、まぁ、私もそういうのがわかる年になったってことね(笑)」

――ちょっと確認ですが、最初に一緒にやろうとしていた大作映画というのは、『Me and Mr.Jones』とは違うんですか。

「あ、それは別よ。さっき話したのはアメリカの大作映画で、それに基づいて歌詞を書こうと思っていたんだけど、結局、実現しなかった。予め映画の公開予定日を確認しようとしたら、確実なところが出てこなくて、『未定です』ということで・・・。『100%確実なことは言えないから、そちらに迷惑をかけるかもしれない』って、ある意味、とても誠実に対応してくれたの。私たちとしても、一緒にやりたいのは山々だったけど、映画に合わせてその都度アルバムのリリースを延期するようなことにはしたくないから、どうしようか・・・と考えていたところ、映画監督のポール・ルーヴェンから『僕の映画用に曲を探しているんだが、合いそうなのがあったら、いくつか使わせてもらえないか』と打診があって、何曲か送った中に、あの曲が入っていたの。私たちとしては、既に『The The Unforgiving』というアルバムを想定して書いていた曲だったんだけれど、それが彼の映画にも採用された・・・実際、彼の映画にもぴったり合っていると思うわ。歌詞の解釈が、何通りもあり得る曲だから可能だったんでしょうね。もちろん、映像と合わせて聴くと歌詞の意味合いが多少違って聞こえるというのはあるでしょうけれど、『The The Unforgiving』というアルバムを知らずに映画で流れてくるのを聴けば、『Me and Mr.Jones』の曲以外の何物でもないと思えるわ」

――それが“Where Is The Edge”・・・。

「そう、それと“Lost”。2曲使われているわ」

――わかりました。じゃあ、まず音楽が用意されて・・・次のステップは何でした?ストーリー作り?

「音楽の次は・・・、最初に音楽を書いて、レコーディングして・・・、いつものことながら、私たちの場合、ヴォーカルのレコーディングは一番最後だから、歌詞を書き始めたのは、その段階になってから。そこまでは音作りのプロダクションに精を出したわ。といっても、WITHIN TEMPTATIONってオーケストラやクワイアが音作りの特徴のひとつだけれど、今回はそれをいつものように全面的に入れていはいない。今までは、どの曲にも必ずオーケストラとクワイアが入ってるけど(笑)今回は・・・今回も入ってはいるけれど、割と抑え気味に後ろで鳴っていたりするの。それは歌重視になっている、ということでもあると思う。クラシックの影響も相変わらず残っているわよ。でも、いつもより少し控え目。そして、どの曲にも共通したエモーション・・・いや、エモーションというのは違うかな・・・う〜ん、何て言うんだろう・・・とにかく全体としてのまとまり、みたいなものを意識して音作りをしつつ、曲毎の個性も重視したわ」

――それって難しそう。

「そうね、大変だったわ(笑)」

――でも、そうなると、全体のプロセスのどの辺りから、ポール・ルーヴェン(映画監督)はじめ、他のクリエイター達が絡んできたんですか?

「まず、ポール・ルーヴェンは『The The Unforgiving』にはまったく関係ないわ。彼は『Me and Mr.Jones』の監督であって、今回のショート・ムービーの監督ではないし・・・」

――あ、そうですね。失礼しました。えぇと、ジョエリ・・・すみません、監督の彼の名前の発音がうまくできないんですが・・・。

「うん、じゃあ、ロマノ・モレノからいくと、彼はコミック・アーティストで絵を描く人なんだけれど、彼は今回の企画でとても力になってくれて、脚本家を紹介してくれたのも彼なの。その脚本家が『The The Unforgiving』のベーシックなストーリーを考えて、今、その全体像とディテールを仕上げてくれている。私たちは、脚本家と一緒にベーシックなストーリーを考えて、あとはプロダクション会社と・・・(ここでいったん、ラインが切れそうになり、彼女の声が聞こえなくなって焦りましたが、少しして、無事にラインが復活)・・・ハロ〜?聞こえてたかしら?」

――いや、途中から聞こえなくなってしまいました。

「どこまで?最初から話す?」

――ベーシックなストーリーを考えて、というような話をしていたんですが・・・。

「OK、じゃあ、最初からいくわ。えぇと、まずポール・ルーヴェンは『Me and Mr.Jones』っていう映画を作った人で、『The The Unforgiving』には何も絡んでいないということ。そして、ロマノ・モレノというのがコミック・アーティストで、私たちのためにコミックを描いてくれている人。で、その彼の紹介で脚本家のスティーヴン・オコーネルと知り合って、スティーヴンと一緒に私たちも『The The Unforgiving』のベーシックなストーリーを考えたの。あと、3本ショート・ムービーを作った制作会社もクールなアイデアを出してくれてる。そうやって皆で作ったベーシックなストーリーを元に、今、スティーヴン・オコーネルがコミック用に台詞を書いたりしてるわ。ベーシックなストーリーというのは、起承転結の大まかな流れだから、細かな肉付けという、当然ながら一番重要な作業を今、彼がやっているというわけ。あとは・・・何かあったかしら、何か忘れてるかもしれないけど・・・だいたい、そんな感じよ」

――つまり、歌詞はストーリーが出来上がった後に書いた、ということ?

「歌詞は、ベーシックなストーリーを踏まえて書いたわ」

――あ、そういうことですね。

「ディテールはまだ完成していない状態だったけれど、おおよその展開はわかっている段階・・・歌詞を無理なく書ける程度には、ストーリーが明確になっていたの」

――そして、アルバムだけでなくコミックやフィルムでも展開する、と最初から想定していた、ということでいいんですね。

「えぇ、どちらも想定して、同時進行で企画を進めていたわ」

――となると、本当に大がかりですね。

「そうよね(笑)、でも、すごく熱意のあるクリエイティヴな人達が集まって、ストーリーを理解した上で楽しんで創作してくれたから、作業はとんとん拍子に進んだわ。『そんなバカな!こんなにたくさんのことを6カ月でやろうなんて、無理な話だ!』と普通なら言われそうなところを、ここまで実際にやってしまったんだもの(笑)。確かに大変だったし、多くの人が残業してまで熱心に・・・義務を越えて取り組んでくれたのも事実よ。特に監督のユーリ(Joeri)と特殊効果のティムの2人は本当に才能に溢れていて、ムービーのクールな仕上がりには彼らの存在がとても大きかった。そういう才能のある人たちが大勢、私たちの周囲にいて、お願した以上の時間と労力をこのプロジェクトに費やしてくれたのが、とってもありがたかったわ(笑)」

――それだけのことを半年の短期間でやりながら、お子さんを2人育てて、さらにもう1人生まれようとしているんですよね?すごいなぁ・・・。

「あははは。まぁ、両親にも少し手伝ってもらっているおかげでうまくっているようなものよ。それに、仕事は週に5日間にして、子供たちが家にいる週末の2日間は一緒に過ごすようにしているし」

――なるほど。やっぱり努力しているんですね。

「まぁね(笑)」







――さて、この大プロジェクトですが、バンドの15周年という年に発表されるのは偶然とは思えないのですが…

「う〜ん、それはないわね。私たちとしては、まったくの偶然だと思ってるわ。というのも、15年も一緒にやってたなんて、私たちはすっかり忘れていたし(笑)」

――(笑)

「だから、まったくの偶然。たまたま何か新しい、クリエイティヴなことをやってみたいと思ったのが、この時期だったというだけのことよ。次はまた全然違うことをやるのかもしれないし、あるいは今回と同じような仕事のやり方をするかもしれないし・・・、せっかくこういう素敵な、クリエイティヴな人材が集まって私たちの力になってくれている・・・素晴らしいチームが出来ているのだから、もし次回もタイミングよく同じメンツで集まることができれば、同じようなことをまたやるかもしれないわ」

――そうですね。今回のアルバムでは、あなた方はWITHIN TEMPTATIONをバンドとしてのみならず、アーティスト集団として提示していますよね。音楽面でも、今まで単純にシンフォニック・メタルと括られがちでしたが、それだけではないことを示しているし、音楽以外のアーティスティックな側面も披露している。バンドのウェブサイトにしてもそう。新しく刷新されて、今やウェブ・マガジンのようですもんね。

「えぇ。ウェブサイトに関しては、今このソーシャル・メディアの時代を生きていることに何故か気づいていないバンドが多いような気がして・・・。もちろん、フェイスブックとか流行っているところが多いけれど、私たちも含めて、バンドのウェブサイトは何となく古式然としていると思ったの。音楽関係以外のウェブサイトを見ると、みんな主題以外の情報をたくさん盛り込んでいるのよね。私たちで言うと、ツアー情報とか歌詞とか、どういうアルバムを出しているか・・・というのが主題だけど、そういうのって、ほとんどの人が既に知っているし、他でも探せる情報でしょ? だったらもっと、ファンとインタラクションできるようにして、こっちからのプレゼンだけに終わらせず、読み物があったり・・・しかもバンドのことだけじゃなくて、音楽業界の現状について、とか、ファッション関係の話、とか・・・ね? 私たちが興味を持っていること・・・、例えば、ロバートがレースに・・・レース・カーに夢中だから、たまにそのことを書いて皆にも彼の趣味をわかってもらえたら面白いかもしれないし・・・、そういう読み物があった方が面白いんじゃないかしら。自宅を終日公開するようなテレビ・シリーズにはかなわないけど(笑)、趣味を紹介したりとか・・・、ヨリーはアイアン・メイデンのカヴァー・アルバムで『MAIDEN UNITED』っていうのを出しているんだけれど、これもすごくいい出来だから紹介したらいいと思うし・・・、あと、彼は For All We Know っていう別バンドにも取り組んでいるから、そのことも・・・とにかく、色んなことを皆に知ってもらいたいと思ってる。WITHIN TEMPTATIONに留まらない様々な顔があることを、皆も知りたがっているはず・・・というか、少なくとも私たちは、そうであってほしいと願っているから。ただ、うちのサイトはまだ改善中で、まだちゃんとなっていないところが沢山あるの。サイトでやりたいことがたくさんあり過ぎて、まだまだ作業が追い付かない。10の場所にいっぺんにいなきゃならないような(笑)、10個のことを同時進行しているような感覚だわ、どれもこれもちゃんとやろうとすると」

――そのウェブサイトで、かなり早い段階から“Where Is The Edge”を公開していましたね。あの意図は?

「まず、“Where Is The Edge”という曲自体は、前のアルバムにかなり近い路線だったから、観た人からの反応が面白かったわ。私たちが『次のアルバムは全然違うものになる』って公言していたところへあの曲・・・ということで、『なんだ、全然変わってないじゃん』とか『へぇ〜・・・』みたいな感じで、中には『変わらないでいてくれて本当に嬉しいです!』なんて言う人もいて(笑)。そういう感想がすぐ、直に返って来るのがウェブの面白さで、それが私たちの狙いでもあった。ビデオはもちろん、『Me and Mr.Jones』からの映像で、そのまま『The The Unforgiving』に使えるはずもなく、ああいう形で発表するのが最善だと考えたの」

――そして『The Unforgiving』の素材もアップロードされたのですが、何といっても3部作になるというショート・ムービーの第一弾。とても興味深かったです。その内容について教えてもらえますか。まずは登場するマザー・メイデンについて。彼女の人物像はとても複雑ですね。

「マザー・メイデンは、いわば巣を張り巡らせて待ち伏せるクモのような女性。殺人者たちの雇い主でもある。魂を浄化してやり直すチャンスを人々に与えている、とも言えるんだけれども、そのために生きている人を殺すことを命じるの。それによって世の中は更に良くなるんだ、と。当然、そこには矛盾が生まれるわ。彼女に言わせれば、『あなたが魂を浄化して生まれ変わるチャンスを与えてあげるから、私のために仕事をなさい』ということなんだけれど、そのためには、殺人という罪をまた犯さなければならない・・・殺す相手が犯罪者だとはいえ、これは矛盾よね。そういうグレー・エリア・・・白黒はっきりしない部分が残されているストーリーが、私たちは昔から好きなのよ。スティーヴンにも、曖昧さとか、矛盾とか、価値観のぶつかり合いとか・・・そういうのが私たちには好ましいから、是非ストーリーに大々的に汲み込んでほしいって頼んでおいた。価値観や美意識のぶつかり合いが、そこここに出てくるストーリーになっているわ」

――そうですよね。道徳観、とか・・・とても深いものがあると思います。

「ありがとう」

――マザー・メイデンの人物像は、あなた方のアイデアですか?

「いや、あれはスティーヴンが考えたものよ。マザー・メイデンという人がいて、人を雇って殺人を犯させることで生まれ変わるチャンスを与えている・・・というベーシックなアイデアを、スティーヴンが出してきたの」

――でも、その人物像にもあなた方の価値観が反映されているわけですよね。そんなストーリーはもちろんのこと、音楽的にもこれまでのあなた方がやってきたことを総括したような内容のアルバムなのではないか、と思うのですがどうですか。

「もちろん、これまでに学んできたことすべてを組み合わせた、WITHIN TEMPTATIONのすべてがここにあるとは思うけれど、私個人としては、音楽性でいうと90年代的な部分はほとんどなくて、むしろ80年代初頭に集約されているように感じているわ。80年代頭の音楽からの影響というのは、私たちにとっては新たなインスピレーション源で、この方向性で向こう数年はやっていけるんじゃないかと思うくらい(笑)、それくらい新鮮だったの。新しく見つけたこのインスピレーション源から掘り出せるものは、まだまだ沢山ありそう。実のところ、『The Heart of Everything』以降、どこへ向かっていいのかわからなくなっていて・・・、あのアルバムは自分たちが書いた最高の作品のひとつだと思えたし、何ひとつ変える必要を感じなかったぐらいだから、逆に行き詰まりを感じてしまったのね。そこで、むしろここは思い切って何か新鮮なことをやって、また変化を求める・・・そういう時期に来たんじゃないか、と。そのために、前とは違う影響源にも戸口を開こうと考えた。80年代の・・・というか、何でもいいから新たなインスピレーションを求めて、まだ曲を書ける・・・新しい方向性を示せるということを見せたかった。もちろん、WITHIN TEMPTATIONならではのアイデンティティーを失ってしまうことなく、ということよ。だから、自らを更新する、という言い方が正しいのかな」

――つまり、このアルバムがバンドの新たな時代の幕を開ける、ということですね。

「そう、その通り!そういう気持ちでいるわ」

――80年代頭の影響源というのを、改めて説明してもらうとどんなものですか。

「始めにも言ったクリス・アイザックにアイアン・メイデン。それからメタリカっぽいリフが出てくる曲もある。メタリカを真似たという意味ではなく、メタリカがやっていてもおかしくないリフ、という意味よ。メタリカが書きそうなリフ、というか。繰り返すけど、このアルバムの特徴は曲毎にユニークなフレイヴァがあって、なのに全体としてまとまりがある、ということだと思ってる。曲によってアイアン・メイデンっぽかったりメタリカっぽかったり、全然違う方向を向いていて、パワー・メタルな曲もあればリアル・メタル・・・メタル・メタルな(笑)曲もあり・・・」

――メタル・メタル(笑)

「うん、リアル・メタルだと語弊があるかもしれないから、メタル・メタルって言っとくわ(笑)。とにかく、スタイルが様々なのよ。クリス・アイザックっぽいフレイヴァも入ってるし、キム・ワイルドだって入ってる。それだけ色んなものが1つにまとまったんだから、我ながらビックリよ。最終的にすべて上手くいったのが、本当に嬉しい」

――キム・ワイルド・・・どの辺にそれが出てたかしら・・・。

「♪ラララ〜ララ、ララララララ、ラ〜ララ♪・・・ってところ。わかる?あははは。“Sinnead”って、ちょっとキム・ワイルドっぽくない?そして“Iron”はアイアン・メイデンを思い出すかもしれないし、“In The Middle of The Night”はメタリカのリフみたいなフレイヴァがある・・・という具合に、私たちが子供の頃によく聴いていた昔からのヒーローたちに大いにインスパイアされているのよ」

――わかりました。では、ここで少し、今も名前が出たアルバム『The Heart 〜』からの4年間を振り返ってもらいたいのですが、色々なことがありましたね。2年前には“In And Out of Love”(オランダのDJアーミン・ファン・ブーレンとの共作)をやったり・・・。

「あぁ、あれね。あれは・・・ちょうど私たちのツアーが長くなって疲れを感じていたタイミングで・・・、いくら私がWITHIN TEMPTATION というバンドと音楽を愛しているからといっても、そればっかりあんまり長くやり続けていると、何か新しいこと・・・全然違うことをやってみたくなるものなのよ。それがまた、新しい曲を書くインスピレーションにもなるし。で、あの時は何だか、ダンス・ミュージックをやってみたい気分だったの(笑)。それくらい、本当に違うことをやってみたかったということね。正直言って、あの時は本当にツアーが長引いて私も精神的にギリギリっていうところまで疲労してしまっていたから、反動であそこまで極端に走ったんだと思う。レコード会社にも『私、ダンス・ミュージックやるわ!ずっとってわけじゃないけど、向こう数カ月はダンス音楽をやらせてみて。どんなのが出来るか、試しにやってみたいの』って話して・・・、そうしたら『だったら、ちょうどアーミンが新しいアルバムを作ってるからアプローチしてみたらどう?前に向こうからアプローチしてきて、きみが興味無いって断ったことがあっただろ?』って言われて。確かにその通りで、以前は全然興味がなかったんだけれど、今回はもしかして一緒に曲が書けるかもしれないと思ったの。それで話をしてみたら、彼が曲のベーシックなアイデアを送ってきて、そこに私が歌メロと歌詞を乗せたものを送り返したところ、彼は私の書いた歌メロと歌詞をとっても気に入ってくれたんだけれど、逆に自分で書いた曲の方が気に入らなくなってしまったらしくて(笑)」

――(笑)

「私の声を乗せたら、何か違うって思ったらしいのよ。それで、私の歌に合うように、彼が後から自分の曲の方を作り替えたの。私が入れたヴォーカルと歌詞はそのままで。それが“In And Out of Love”なんだけど、それが大ヒットしちゃったんだから、わからないものよね(笑)。でも、やってみて私はすごく楽しかったし、自分のバンドの外での仕事は、いつだってすごく勉強になる。自分のバンドの中にばかりいたら、可能性は限定されてしまうわ。周りにどんな音楽があるのか、どんどん探しに出て音楽の世界を広めた方がいい。もちろん、外に出てばかりではダメで、自分の足場はしっかり持っていなければならないけれど・・・、私、ああいう音楽も大好きなのよ。私は音楽の趣味の幅がものすごく広いの。ブルースも大好きで、若い頃はブルースもやっていたけれど、それを永遠にやろうとは思わなかったし・・・。ブルース・ロックのバンドにいたことがあるのよ(笑)。それが今は、メタル・シンフォニックなバンドにいる。でも、好きな音楽は相変わらず幅広くて、左の端から右の端まで・・・そしてその中間にあるものも全部、興味の対象だわ」

――クラシックのオーケストラとも共演していますもんね。

「そうね。WITHIN TEMPTATIONでやれること、となると、自ずと限りはあるわ。ボブ・マーリーが大好きでレゲエが好きだからって、このバンドでレゲエをやるわけにはいかないし(笑)。でも、それはそれでいいの・・・というか、私にとってWITHIN TEMPTATIONの音楽が一番、音楽を書こうというインスピレーションをくれるものだから。違うことは、たまにやるからいいのよね、きっと」

――フル・オーケストラと組んだり、逆にアコースティックでやったり、様々なパフォーマンス形態を経験してきたことが、今回のアルバムに何かしらの影響を与えていると思いますか。

「いや、それはないと思うわ。『Black Symphony』でオーケストラやクワイアやヴィジュアル面やステージの演出を突き詰めたから、その反動として削ぎ落した形でのツアーをやることになった・・・、つまり、『Black〜』以上に大掛かりなことはできないし、あれが大掛かり過ぎてファンとの距離を感じた部分もあったから、私たちも親密感が恋しくなったという関連性がそこにはあったけれど、『The Unforgiving』はまったくの新機軸。新たな時代に、新たなインスピレーションに基づいて作ったもので、強いて言うなら『The Heart〜』への反動がこうさせた・・・あそこで行き詰って、そこからどう進んでいいかわからなくなった私たちが、『この際、今までのことをすべて白紙にして、何もないところからスタートしたらどんな音楽ができるかやってみよう』と思うようになった、ということぐらいかしら」

――基本的には、その時々でやりたいと思ったことや音楽的欲求を満たしながら、次へ進んでいく、と。

「そうね。それがいい結論だと思うわ。時々、『なんでそんなにコロコロとやることを変えるのか』とか、『毎回違うことをやって、ファンの反応が心配じゃないのか』とか聞かれることもあるし(笑)、それは確かにその通りなんだけれど、私たちのすることには常に一本筋が通っていることも確かだと思うの。私たちは、自分たちがいいと思うことしかできないし、新しいことをやるというのが私たちのインスピレーションになるのだから、同じところに留まってはいられないのよ。常に前に進んでいたい。そして新しいことに取り組んで、バンドとして“今”に存在していたいの。“過去”にじゃなくて。変化には当然のように、ちょっとした恐怖がつきまとうから、新しい閃きに対してオープンに構えているというのは勇気のいることよ。でも考え方を変えれば、変われるということは自由だということ。そうでしょ?同じバンドである以上、ある程度の限界はもちろんあるにしろ、新鮮味のあるサウンドを求めていけるのは解放感があるわ」

――それと、よく聞かれる質問だとは思いますが、この間に2人の子供の母親となり、今またもう1人を待っているということが(笑)、音楽に与える変化はありますか。

「音楽的には無いわね。ただ、今後は当然、調整が必要になってくると思う。どちらも一番いい形でやっていきたいから。フルタイムのミュージシャンとして大好きな音楽をやっていたいと思っているのは間違いないんだけれど、一方では家庭生活も充実させたいとも願っているので、問われるのはバランスということになる。その点だけよ、影響が出るのは。とりあえず、まだ子守唄は書いてないし(笑)、心配は御無用よ」

――わかりました(笑)。それと、脱退した前ドラマーのことなんですが。

「あぁ、ステファンね」

――それがどういう経緯だったのか、よかったら教えてください。

「あれは彼自身が決めたことよ。彼には別のバンド・・・My Favorite Scar という自分のバンドがあって、すごくクールなバンドで、とってもいい音楽をやっているんだけれど・・・、まぁ、きっかけは『The Heart〜』のツアーでしょうね。あの時は本当に全員にとってへヴィな時期だったから・・・。ツアーの最後の最後になって追加公演が次々と決まってしまって・・・、それだけ成功していたということではあるんだけれど、当初は予定になかったアメリカをもう一度回ることになったり、しかもそれが本当はホリデーの予定だったのに3週間のアメリカ・ツアーが追加されてヘッドライナーで周ったのよ。更には、延期になっていたドイツ公演の仕切り直しが2週間、その後に続くという・・・もう、本当にみんなヘトヘトだった。お互い1日中、顔を突き合わせているんだもの、しまいには一緒にいるのもイヤになってしまって、やることなすことイヤでしょうがなくて・・・だから、いよいよツアーが終わるという時に、『しばらくお互いに距離を置きましょう。客観的に考えた上で、色々と結論を出しましょう』ということにしたの。お互いが嫌いになったというわけではなくて、ツアーの組み方の問題だったんだけれど、あのへヴィな時期に何かが壊れてしまったのは確かで、それを取り戻すことができなかった。ステファンの件も、その1つで、考えた末に『ここでいったん終わりにした方がお互いのためにいいだろう』ということになったのよ。そして彼はMy Favorite Scar で前進する道を選び、私たちは・・・彼が出ていくのは残念だったけれど、いい形で別れることができたのは良かったと思ってる。今でも何だかんだと連絡を取り合っているわ。そういうこともあるわよね。長い間一緒に活動してたから、家族の一員を失うような寂しさはあるけれど・・・でも、仕方がないのよ。お互い、いい形で道を分かつことができたんじゃないかと、私は思ってる」

――円満だったとわかってホッとしました。

「えぇ、それは大丈夫よ」

――そして、新しいドラマーをつい先日、発表したんですよね。マイク・・・

「そう、マイク・コールン。彼は過去に何度か、ステファンの都合がつかなかった時に代理で叩いてくれたことがあるドラマーで、ステファンの親友のひとりでもあるの。彼はこのバンドにぴったりの、落ち着いたクールな人。とりあえずは、彼が長くバンドに残ってくれることを願っているところよ(笑)」

――というと、まだ正式なメンバーではない?

「いや、正式なメンバーよ。でも・・・ね、先のことは誰にもわからないでしょ。現状、彼は相応しい選択肢に思えるし、きっと立派にこなしてくれると私は思っているけれど・・・。でも、そう、彼が次のドラマーにもう決まっているわ」

――すみませんが、あと2つくらい質問させてくださいね。今度はプロデューサーのダニエル・ギブソンのことなんですが・・・今回のように新たな、しかも大きな試みをするにあたって、彼のように馴染みのあるプロデューサーがいてくれるのは、心強かったんじゃないですか。

「えぇ。逆に『この機に新しいプロデューサーに変えればいいのに』という声もあったんだけれど、もう長い間一緒に仕事をして色々と教えてもらった人だし、とてつもない才能の持ち主で何でも出来る人だって私たちは思っているから・・・それに、今となっては私たちの大親友でもあり、特にロバートとは仲がいいの。あの2人の仕事の相性は最高にいい。私にとっても安心して仕事ができる相手で、いい友達でもあり・・・、いちいち説明しなくても『あぁ、こういうことね』と判りあえる仲でもある。それに彼もWITHIN TEMPTATIONにはそろそろ変化が必要だと・・・『The Heart〜』とはまったく違うことをやるべきだと考えていたから、彼も含めて全員のヴァイブが一致していたの。アルバムを作る度にそうだったんだけれど、彼はいつもバンドと同じことを考えているのよね。予め意見を交換しているわけでもないのに、話し合ってみると必ず同じ結論に至る。私たちが『ねぇ、ダニエル、今度はこういうことをやろうと思ってるんだけど』と持ちかけると、決まって『それは偶然だな。僕も同じことを考えていたんだよ』って(笑)。これだけの人数が集まって、同じ考えのもとに1つのことに取り組めるって、すごく素敵なことだと思う。しかも、まだまだお互いから学べるものがあるしね。それぞれ、色んな経験を積んでいるから、その・・・音楽の面だけでも」

――わかりました。そして、アルバムが出ればツアー・・・ですが、現在あなたが妊娠中ということで、動き出すのは少し先になりそうですね。

「えぇ、7月の終わりか8月の頭・・・フェスティヴァルから始動する予定でいるわ」

――日本も?

「そうしたいけれど、今年は無いかな。まだ何も決まっていないから、もしかするとサプライズで急に何か入る可能性はあるけど・・・、今のところ日本ツアーは入っていないのよ。たぶん、来年でしょうね。期待していてちょうだい」

――アルバムを聴いて、ムービーを観て、コミックを読んで・・・ツアーまでの宿題もたっぷりありますね(笑)

「そうね(笑)」

――何はともあれ、大事にして元気な赤ちゃんを産んでください。

「ありがとう!また日本で会えるように、幸運を祈っていてちょうだい」


(以上)



追記:
シャロンは3月30日に無事男の子を出産!ローガン・アーウィン・ウェスターホルトと名づけられ、体重は約2500g、身長は47cmだそう。予定日よりも5週間も早く生まれましたが、シャロン、そしてローガンちゃんともに健康との事です!







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